歴史の一幕3

Fortune

「だから、俺はこんなのは嫌だったんだ！」



「そんなこと言っても、仕方ないでしょう？」



「俺の身長や体重を全世界で使うなんて、どうかしてる！」



「否定はしないけど・・これも仕事のうち・・よ？」



「気楽に言ってくれるよ・・」



「変われるのなら変わってあげたいですわ」



「・・いや、そういう意味じゃない、悪かったな、シェリア」

• 321年 建設中の帝都宮殿 皇帝が私室に一人

「そろそろ、私も眠るときが来たようだ。

　考えてみれば、色々な事のあった人生だったな・・。



　シェリア・・そこにいるのか？

　今まで引き止めて悪かったな・・・。

　縁があれば・・・また会える・・・。



　シュミ・・また背中に乗せてくれ・・。

　俺は風を切って飛ぶ方が、まだ・・

　・・性に合うと言っただろう？



　第一・・まだ終わって・・ない・・・・」



真祖、最後の御言葉の意味が分かるのは、遥か先のこと。

しかし、そのとき、この言葉を覚えている者は皆無に近い。

• 328年 アウザ湖を眺めながら、かつての勇者は語る

「フィリップ！ どこだ？」

「馬鹿な！ 誰が火を放ったのだ？」



深夜に及んだ戦いの混乱が、何かを狂わせたのか？



「・・・オードル・・ディンガー・・・

　私は・・ここは？ ・・・！・・・何と言うことだ・・」



激しい炎に阻まれ、仲の良かった３家の長子たちが

揃うことはもう叶わない・・。



「もう皆に合わせる顔が無いな・・

　このままリグナーデの所まで・・

　・・エミリア・・・・」



このときミシリング家は断絶することとなった。

• 338年 炎に包まれたミシリング家の館

「ヨブ・・・・お前に頼みがある」

「何なりと・・陛下・・・」

「ふふ・・この期に及んで、そんな口調はよしてくれ・・」

「こちらにも体面というものがあるのだがな・・」



「"塔"に預けたもの・・・あれのことだ・・」

「中は開けていないぞ？」

「・・それでいい・・だが、最初の書簡はお前宛てだ」

「そこに書いてある通りにすればいいんだな？」

「話が早くて助かる・・お前の孫・・いや、ひ孫ぐらいに・・なるとは思うのだが・・」



「例え私の子孫でなくとも"塔"が責任を持つと誓おう」

「充分だ・・・・」

• 355年 アールハス公、親友を看取る

「・・ワ・・ワタ・・シ・・ハ・・・ダレ・・？」



それは50年前、魔族に踊らされて引き起こされた悲劇の犠牲者。

その魂は新たな生を拒み、この地に残っていた・・。



「アあ・・やハり・・ゆメではない！」



次第に形を取り戻す魂・・いや、もうそれは魔・・なのか？



「あの方を奪った罪、必ず償わせる！」



はっきりとした怨嗟の念・・それだけが『それ』を動かす。

瓦礫すら分からない荒地に、禍々しい気配を帯びたものが集まる。

• 388年 かつてミシリング家の館があった地で

「あなたは、こちらに残るのね？」

「ああ。それが約束だからな」



「正直なこと言うと、私も迷ってるの・・」



「あんまり利口な方法ではないな。・・だが、鍵を２つに分ければ、

　それだけ封印も守りやすいさ。俺達が分かっていればいい」

「そう・・そうよね・・」

「何代もかけて謝り続ける・・そうするしかないだろうな。

　今のままでは、魔族に蹂躙されるままだったんだ・・」



「ええ。でも、エラゾソのこと、本当に注意して」

「ヘカリスも分かっているさ。一番、損な役回りだな」

「・・彼によろしくね。じゃあ、行くわ」



この年、エーリアは正統ゼール王国を発足させることになる。

• 413年 シリアム・ゼリナート城門 しばしの別れ

「リュシル様・・その赤子は・・人間では？」

「ええ、そうなの。さっきから泣き声が聞こえてて・・」

「黒い瞳・・中央の血・・ですかね」

「このまま、放っておいたら可哀想よね」



彼女は その赤子に心当たりがあった

何十年か前、もしもの時はよろしく頼む、と言った男がいたのだ

どうやら、その「もしもの時」が来たようなのだが、

素直に言うことを聞くべきかどうか、珍しく迷った



その時、赤子が自分に微笑みかけた・・ような気がした



「うふふ、育て方・・次第よね・・」



周りのエルフ達がいぶかしげにしている中、楽しげにするリュシルだった

• 415年 銀輪の森にて

「・・・あとはマリュ・・お前に任せたぞ」

「父上、気弱なことを仰いますな・・」

「自分のことだ。分かるとも。・・・そろそろ眠くなってきたな」



もどかしげに口にすると、ヘカリスは目を静かに閉じた



「ゼール・・やはり リグナーデの導きが必要不可欠だな・・

　せめてエーリアだけでも、あいつと一緒にしてやってほしいんだが・・」



"生ける盾"を構成していたメンバーは皆先に旅立っている

自分が一番最後・・一人見送るたびに増す寂寥感と戦うのも、これで終わり・・



すすり泣く声の中、静かに彼もリグナーデに抱かれたのだった

• 442年 息を潜める王城の中で

大きな衝撃と共に"槍"が、彼女の持っていた鎌を砕く

そのまま彼女の胸に深々と"槍"は突き刺さる・・



「・・ジ・・ジーナス・・・・」

「俺が分かるか？」

「・・ええ・・ありがと・・う・・」

「礼には及ばん」

「・・・ごめ・・んなさ・・い・・」

「謝罪も不要だ」

「でも・・もう・・あなたとは・・」

「お前一人だけにはさせんさ。

　それならリグナーデも分かってくれる」

「・・ああ！」

「いずれ、どこかで会った時は、約束・・守れよ・・」

「・・は・・い・・・」



転生し受け継がれていく魂・・それは希望をつなぐ鎖・・

• 480年 閃光の中で・・

「やはり双子が我が国に与えた影響を考えますと・・」



「だがだからといって、どちらかを捨てる・・という訳にはいかん。

　オッフレングがそうするように、我等も抗するまでだ」



「・・確かに・・。

　ですが、民に広まる不安だけは何とかするべきかと・・」



過去、公国に双子が生まれたときに起きた事件は、枚挙に暇がない。

そして残念ながら、それに例外はないことが、すぐに分かる・・。

• 481年 ディス公国内に噂が絶えない

「ビステムの兵が城内にも侵入したようです」

「街は大丈夫・・だろうか？」

「昨年来、近隣に避難した者が多い・・はずです。

　ですが、我々の前途も決して平坦ではありません・・」

「その通りだな・・」



その腕の中で、赤子が すやすやと眠っていた。

しかし、その安らかな眠りに何か邪魔が入ったらしい。

赤子は、目を開けて大きな声で泣き始めた。



「！ ああ、ユリエル様・・

　お願いですから お泣きにならないで下さい。

　奴らに見つかって・・・！」



赤子が怯えるのも無理はない。

彼らの眼前には、ここにはいるはずの無い姿があったのだ。

明らかにそれは魔族と呼ばれる高位の存在のはずだった・・。

• 481年 深夜のディス公居城地下を歩く人影

旅人・・というには軽装だった

客人・・という先触れも無かった



「おい！ そこのお前！ ここに何のようだ？」



訝しげに詰問する衛兵

そちらに虚ろな目を向けた彼女を見た時、衛兵がはっとする



「・・どこかで見た顔・・・・！・・エーリア様？」



既に記憶だけとはいえ、

城に飾られた初代女王の肖像画を見た事の無い者はいない



「・・ゼールが・・ここに来いって・・」



生まれも育ちも分からない、この謎の女性が 次の女王になる

ということを、この衛兵が想像できなかったとしても、誰も責められまい

• 492年 シリアム・ゼルスの城門 思いもよらない客人

「ギルスはこの辺に詳しいのか？」

「・・詳しいというほどではないな」



もうひとり、若い女性がその後ろを懸命についていく



「きゃっ」

「！・・なんだマリエル、脅かすなよ。

　魔物でも来たのかと思ったぞ？」

「足元、気をつけてな。結構崩れやすいぞ」

「ご、ごめんなさい・・。

 ちょっとよそ見をしちゃったみたい・・」{{br}}

だが男２人は、彼女の様子が少しおかしいことに気づいていた。

扉の入り口に刻まれた紋章を見つめたときの彼女の表情は

とても平静のものとは思えなかったのだ。

• 499年 かつてのディス公国離宮にて

「今度の皇帝陛下は、妙なことばかりするなあ」

「ああ。ヴェゼリアがあるっていうのに、

　なんだって今更街道を作るのかねえ」

「俺らにはさっぱりわからんなあ」



そのころ帝都には秘密裏に召喚された者がいた



「黒影が車ウォンデル様が御到着です」

「うん、これで全員揃ったな」

「陛下、矢と車を呼ぶとは、どのような御意志でしょうか？」

「これから説明するよ。

　聞きたいことは山程あるだろうが、それからでいいかな？」

「は、勿論でございます」



即位したとはいえ、まだ17歳・・皇帝より若い黒影衆はいない

それでも槍に認められた皇帝である以上、その意志は絶対だ

• 502年 密かに帝国は動き始める

「・・『国王』より伝令でございます。

　『時は来た。封印はやがて解ける。

　　コルフティカの封印守護の任を解く。全軍 王都へ進発せよ』

　この命に従い、現在王都に向かい移動中でございます。

　まずはアフィシャス帥爵との合流後、指示をお待ちします」



疲労の極限に達しつつ、伝令は一気に言伝を奏上した。

謁見の間でアナティ１世は思案顔になるが、すぐに決断する。



「ゴージェット統爵を呼べ。リサァンテとマナテルムにも伝令。

　いつでも出撃できるように準備を整えさせろ。

　・・・あとは南にも使いをやりたいのだが・・・」

「私が参りましょう」



アナティ１世が右腕と頼むイフィリスが進み出る。

うなずく国王。



「うむ。これは我が国だけの問題ではない。必ず伝えてくれ」

「はっ」

• 503年 昼夜を問わず駆けてきた伝令を前に