歴史の一幕2

Fortune

「馬鹿な！ 我らの不始末を後世に押し付けるのか？！」



「では、どうする！ ダウゼント砲は焼け付き、あれを消し去る方法は無いのだ！」



「・・そのためにガーランド宮を犠牲にするのか？」



「消え去るわけではない・・・それしか言えんのだ・・・」



「神官たちは何と？」



「このことを語り継ぎ、決して忘れぬように・・と・・」



「我々とて、他に方法があるなら教えて欲しいぐらいなのだ・・・」

• 魔道大戦末期 苦悩する魔術師達

「オヌシノ・・コト・・・ワスレヌ・・・・ゾ」

「ワレラヲ・・・タオシタ・・ト・・オモウナ」



近隣の人々の命を奪ってきた２体１組の魔物。

その連携に苦戦するも、どうにか討伐は終わりそうだ。

ディスの最後の一撃で２体の魔物は剣に刺し貫かれた。



「イズレ・・ワレラノコトヲ・・オモイダサセテヤル・・」

「・・ナンダイデモ・・イツマデモ・・・ワスレルナ・・」



「いちいち覚えていられるか・・」



その時は、さして気にも留めなかったのだが・・。

• 161年 南方にて 若き日のディス

「何があったの？ 精霊たちが怯えてる・・」

「俺にはそういうのは見えんがな・・この寒気は普通じゃないな」

「秤の印が先ほどから触れられないぐらいに熱く感じます」

「！！ 来る！ みんな逃げて！」



(猛烈な冷気・・海の精霊の力が暴走している)



「・・おい、みんな無事か？！」

「何とか・・でも、私たちの手には負えません・・」



「ほら、突っ立ってないで、逃げるんだよ！」

「でも・・精霊たちが・・泣いてる・・」

「自分が死んだら意味が無いぞ！」

• 299年 主無き精霊殿に冒険者が挑む

漆黒の槍が"魔王"と呼ばれた存在を貫く



その姿は揺らめき始め、全身から人々の魂が解放されていく



「今回は・・我らの負けを認めよう

　・・だが、次は・・・次こそは・・・・・」



勇者の手に力がこもる



「その時は・・この槍がまたお前を貫くだろうさ・・」



凄まじい咆哮と共に、禍々しい気が霧散していく



「・・今は・・まだ無理か・・・」



最愛の伴侶を失った彼に、仲間達もかける言葉を見つけられなかった

• 320年 ガーランドと呼ばれる地で

静寂が玉座の周りを包む。そこへ、一人の騎士が謁見に訪れた。



「陛下、吉報にございます」

「む・・？ もしや、ドワーフたちと・・？」

「御意にございます。魔を断ち切る剣を鍛える約束を取り付けました」



どよめく広間の人々。遂に切り札が手に入るかもしれない。



「ただ、それだけの力を持つ剣となると、持ち主を相当に選ぶだろう

　と申しておりました」

「構わぬ。剣があれば、それを操る者も現れよう。我が国にも勇士は多い。

　だがどんなに勇士がいても、使う武器が無ければ意味が無いのだ」

「それでは剣の鍛錬を依頼いたします」

「必要なものがあるなら、幾らでも揃える。頼んだぞ」

• 404年 オッフレング王国 王城

「・・ゼール！ 早くその場を離れろ！」



敬称を呼ぶことすら忘れて叫ぶ コルフティカ。



「これ以上、この中に入って帰ってこれない者を増やしてどうする！

　だが、誰かが抑えなければ封印は完成しない！」



魔族を封じる封印の只中で、魔族たちの力を押さえつけるゼール王。



「いいか！ この封印の鍵、絶対に守り抜け！ 手段は選ぶな。

　今この封印が解けたら、取り返しが付かない！」

「ゼール！・・あなた！」

「エーリア、済まん。鍵のこと、お前に任せる！」

「・・分かったわ・・」



集まった"生ける盾"の人々にも、国王は叫ぶ。



「いずれ、この封印は解ける。その時まで備えを怠るな！

　その時リグナーデの導きがあるのなら、また共に戦おう」



それがゼール王の最期の言葉となった。

• 410年 西方辺境の地で ゼール最期の時

「将軍閣下、これ以上はお断りできないと思うのですが・・」

「・・だが、将軍と選王を兼任など、前例が無いぞ」

「これまで必要が無かっただけだ。ここは引き受けてくれ」



配下の侍が慌てた様子で入ってくる



「大変です！ エルフが・・黒のエルフが！」

「なんと！？」



「このたびの選王 ご就任、お祝いを申し上げます。

　早速で申し訳ないのですが、ご相談いただきたいことがございます」

「・・ここまで根回しをしていたとはな・・」



しかし、現実にニスティアートのエルフが、人の前に姿を現すのは

紛れも無く緊急事態なのである。

• 428年 中央イリュメン シンカイ家の屋敷

「お前たち！ 自分が何をやっているのか分かっているのか？」

「そっくり、その言葉は返してやる。

　考えてもみろ、こんなことに何の意味がある？」



そんな話し合いをしているところに、更に別の一隊が入ってくる

だが、どの兵も目が虚ろで、まともな状態とは思えない



「見ろ！ こいつらが本当に我が帝国の兵といえるか？」

「・・む・・これは確かにおかしい。何が起きている？」



虚ろな目の兵たちは、問答無用でこちらに切りかかってきた



「彼らとて、我らが同胞のはず・・

　ここで斬り合うのは得策ではないな」

「ああ・・こんなことを企んだ奴こそ、討つべき相手だ」

「この兵たちは・・デファナート様の直属？！」

「・・まさか・・」

• 434年 南方アンフェナで帝国軍が相討つ

「皆…皆、死んでしまった！

　これ以上、好きにさせるわけにはいかない！」



激しい息遣い…たった独りとはいえ、彼女も黒影衆の一員。

手に持つは、切り札の神槍。その双肩には人々の想い。

かつての主君に切っ先を向けて、深紅に染まった広間に立つ。



「お前にできるかな？」



ほくそ笑む"魔"



「当然だ！ そのために我等は生きてきたのだから！

　黒影が剣リアーナ、この槍の名の下に、貴様を討つ！」

• 435年 帝都シリアム・ティトセラ 血臭漂う玉座で

眼前で近衛兵が次々に倒されていく



「・・お前が最後か」



男性にも女性にも見えるその魔族が冷笑を向け、その手を国王に向ける



「頼む！ ここで・・ここで使えなければ、どこで使うというのだ！！」



魔族の手から放たれる一撃・・とっさに沈黙する剣で己が身を庇う

その時・・鞘からも漏れ出るほどの光を剣が発した

魔族の力にさらされて、自身の使命を知ったのだろうか？



「おお！ これこそ、我がオッフレング家を守る光だ！」



光放つ剣は、遂に鞘から引き抜かれた

光に戸惑いを見せた魔族の隙を突き、その刃は深々と魔族の体に埋まる

• 438年 鞘から抜けぬままの神剣を片手に

「将軍！ 哨戒の船が！」

「私にも見えている！ 相当の相手のようだな！」



白い水しぶきを激しく上げ、海上を滑るように移動する影



「全兵に告げる！

　敵はたった一体。しかし手加減をする余地は無い相手だ。

　我等の国と民を守るため、魂を賭けて これ以上の前進を許すな！

　全軍、刀を抜け！ 弓を構えろ！」



激しい戦い・・犠牲は少なくなかった

だが、ガーランドの国土は侍達により見事に守られた

• 480年 イリュメン近郊の海岸 護国兵団が待ち構える

「へ・・陛下！ 一体 何をなさるのです！」

「誰か！ 薬師を呼べ！ ・・いや、ラノスの神官だ！」



だが流れる血の量は、既に手の施しようがないことを ありありと示す



「・・良い・・のだ・・。どのみ・・ち・・老い先・・短い・・身・・

　こ・・これで・・世界が・・救われ・・るのな・・ら・・」



みるみる力を失っていく腕・・

しかし、目を見開き、最後の力を振り絞って彼は願う



「神々よ！ 槍よ！

　・・我が魂・・に賭けて・・今一度、我等・・に力・・を！

　希望を・・・」



魂を振り絞った言葉に、神槍は目覚め、力を取り戻していく

だが、老王が それを見届けることは叶わなかった・・。

• 480年 自らを"槍"で貫き

「馬鹿な！ なぜ私などをかばった？」

「・・・俺は・・お前たち・・ゼールの・・連中を・・絶対に許さねえ」

「・・・」

「・・だがな・・・・魔族は・・魔族は・・もっと許せねえ・・・」

「！」

「今はな・・手負い２人より・・腕のいい・・お前が無事な方がいい・・それだけだ・・・」

「・・いや・・だが・・」

「いいか！！・・・お前は・・・このあたりの魔族を全部倒せ・・・・そして・・死ね・・・・」

「・・・・心得た」



「・・・・・・・・」



「・・リグナーデよ、この者の魂を導きたまえ・・・」

• 491年 アフィシャス近郊 名も知れぬ 剣爵と 鋼の騎士は語る

剣を返しに来た、という若者を兵達が取り囲む



「おいおい、待ってくれよ。別に盗んだわけじゃない。

　今、話した通りだ。本当に王子に渡されたんだ」



だが、その剣を知る者は、そんな若者を

どのように扱えばいいのか、いまだ分りかねていた。



「鞘は申し訳ないが、見つからなかった。

　それは詫びなければいけないとは思うんだが・・」



それを聞いた兵たちは、さらに息を飲んで、動けなくなった。



「！！・・ワレムだ。間違いない・・しかし、どういうことだ？！」



オッフレング王家が断絶した今、抜き身で持てる人物はいない

・・はずの剣なのだ。

• 501年 主なきオッフレング城

「くそっ！ どこに被害を報告すればいいんだ！」

「行政府はどうなったんだ？」

「今見に行けば分かる！ただの瓦礫の山だがな・・」

「なんてことだ・・街が・・壊滅じゃないか」



突如、地下から浮き上がった巨大な円盤・・。



その影の下は、つい昨日までは北方でも最大級の都市だった。

だが、今はただの瓦礫の山に過ぎない。

そこかしこから助けを求める声が溢れている。



「とにかく手が空いた者でなんとかするしか無い。

　エレンヴァースと・・ヴィシュに伝令を出すんだ」

「エレンヴァースはともかくヴィシュにもか・・？」



ヴィシュ家のことをよく思っている者は北方にはあまりいない。

だが救援物資を一番最初に届けたのはヴィシュの者だった。

しかも、それは無償で提供されたのである。

• 504年 北方で上も下も無い大騒ぎ・・