歴史の一幕1

Fortune

「・・・我らは生きているのか・・

　それとも、ここはリグナーデの腕(かいな)の中か？」

「いえ・・大地の多くが引き裂かれましたが、我々は生きております」

「そうか・・・魔の気配は？」

「精霊たちの力は強く働き、その中に封ぜられております」

「そうか・・・」

「今はただ祈るのみ・・なのかもしれませぬ・・」

「・・そうだな・・皆にも休息は必要だろう・・・」

「はい、予想された最悪のことが起きてしまいましたが・・」

「なればこそ・・このことを語り継いでいかねばならん」

• 魔道大戦直後 封ぜられた大地の中で

「まさか、ここまで私の邪魔になるとはな・・」



「私を見くびった・・というよりも、

　人の道を踏み外したことに対する罰なのだろうよ」



「だが！ ここで貴方が戦死すれば誰にも分かるまい！」



「・・その通りだ。

　それはお前にも言えることだがな、ウィアリス」



静かに剣を構える二人・・・

• 213年 ディス王城大広間 対峙する若き王子と宰相

「大きな戦いが終わった。

　・・だが、それだけだ・・。

　魔族たちは依然として、この世界を諦めてはいない。

　それが故、我らは常に備えなければならない。



　とはいうものの・・・



　まずは皆、休もう。

　当面の大きな危機は脱したのだから。

　そして、この日を迎えられなかった人々を偲ぼう」



賛同の声がやまぬ中、新帝は壇上を降り、一人呟く



「・・どう考えても柄じゃないな・・」

• 321年 建築途上の帝都宮殿前 即位の儀での新帝の御言葉

「これまでのことを忘れろということですか？」

「堅帝 ならびに先の陛下の御恩も、同様に忘れるわけにはいくまい？」

「・・・」

「どの道、我らの様に翼なくして この街にたどり着くのは至難の業だ。

　なれば、それでもたどり着いた者は歓迎しよう、というだけだ。

　この街だけで生活するのにも限界はある」

「その通り・・です・・」



「色々な思惑の人がいる・・そのことを知っていれば良い。

　ニスティアートが身動きできない上に、動き回るのは我らが得手だ」

「グレッサ様はなんと？」

「ここ数百年は問題ないはず・・と仰っていたが、何か不安があるらしい。

　そのためにも、誰かが折れるしかない・・ということだ。

　今までのことも突き詰めれば、ミレニルスが原因だったしな」

• 355年 リッグキートで翼持つ者が語る

「へ・・陛下！ どういうことです！？」

「何を慌てている・・どうもこうもない。言った通りだ。

　帝国は領土を縮小し、東方以外から兵を引く」

「ですから！ 北や南はともかく 西は放置できませんぞ！ それに・・・」



王者の風格を既に帯びた新帝の目が大臣を射抜く。

その力の前に、息巻いていた大臣の舌が凍りつく。



「"塔"からの伝令、お前も知っていよう・・」

「！ では、今回のことは・・」

「そういうことだ。それに東以外を見捨てるとは言っていない。

　西には剣と車、それに矢も放っている。何かあれば連絡があるだろう」

「そこまで・・。・・先ほどの僭越な愚言をお許しください」

「いや、良い。それが当然の反応だ。リヒテスもそう言いそうだったな」



天を仰ぐ視線・・それは槍に撃たれた兄に向けられているのか。

• 400年 帝都シリアム・ティトセラ ７世即位式典後

港を牛耳っていた黒幕を打倒した戦いの直後。皆の興奮も冷めやらない。



「これで後ろの安全が確保できたし・・次はレーグか・・」



コルフティカが呟くと、皆静まる。レーグ・・西方の内陸で一番大きな街。

西方混乱の原因となっている裏組織「銀十字」の本拠地。



「おい・・」



ヘカリスが声を潜めて その話題を止めさせたのと、

ゼールがエーリアを伴って部屋に入ってきたのとは、ほぼ同時だった。



「やっぱり、父の息がかかっていたわね・・・」



部屋に入るなり、ため息をつくエーリアだった。

• 403年 西方の港町リサァンテ ヴィシュ商館

『反乱軍』の勢いは止まる気配が無い。



「・・押し返すには手駒が少なすぎるな」

「はい。これ以上 大規模な戦闘を続けても、痛みが増すだけかと・・」



ヘカリスとコルフティカが歩きながら、この後のことを話し合っている。

・・が、兵たちから離れるや、二人の口調はがらりと変わる。



「予想以上に、エーリアに兵力を持っていかれたなあ」

「心情的には、我々が悪役と言っても過言ではない」



苦笑しながら、これまでのことを思い返す二人。



「いい頃合だ。全軍をアフィシャスに戻し、守りを固めよう」

「マナテルムにもな。境目としては、まあ充分だろう」

「ゲーゼ布の値上がりを、ヴィシュが嫌ってたがな」

「多くは望めません・・とでも言うことだな」

• 417年 アフィシャス近郊 ゼール王国軍本営

「こんな所にお越しいただいて申し訳ありません・・」

「そんなにかしこまらなくても構いませんよ。

　陛下も今回のことは、さすがに御憂慮されていましてね」



跡形も無く消滅し、砂野原となったかつての街を見る『黒影の杖』アルザイン。



「古文書にある『ダウゼント砲』ですね・・」

「ゼハラは古くから古代魔法文明の研究を盛んにしていました・・」

「その影響でしょう、この付近では魔法が使いにくくなっています」

「・・と申されますと？」

「魔晶が大量に消費されたのでしょう。・・ふむ、これが狙い目か・・」

• 425年 光に包まれて消滅した ウィ=カハシュを見ながら

「双方、兵を引きなさい！

　この世界の宝を、これ以上台無しにしてどうするのです！」



ゲーゼビットの街の代表者が、相対した２国の兵の間に割って入った。

一触即発だったが、その凛とした声に、兵たちは顔を見合わせる。



「エーリア様の使いは、無事に届いたようですね」

「今回はあちらが侵略してきたわけだから徹底抗戦・・

　と本当は言いたい所なんだが・・」

「ゲーゼ布にこれ以上の被害があると、我が国の不利益が大きすぎます」

「そういうことだ。金はあるに越したことは無いからな。

　それにあちらも、これ以上の戦いは無益だと薄々感じているはずだ。

　いい頃合だろう」



分裂した２王国の軍は、その後互いに撤退を開始することになる。

• 426年 ゲーゼの畑に太陽の光が反射する中で

「今年のゲーゼ布は・・全滅だな・・」

「それすらも私の責任かな？」

「いや、我々の責任だ」

「だが、来年は素晴らしい収穫が期待できよう」

「今年、全滅することを無視して、そんなことがいえるか！」



猛烈な勢いで乱れ飛ぶ火球

避けきれないものを手で払いながら、元族長は笑みを浮かべる



「そんな頭では、私を止めることすら出来ないな、新族長？」

「黙れ！ 掟を守れなかった者が何を言う！」



その一言に彼の表情が変わった。



「掟？ それは何だ？ 誰のための掟だ？ 考えたことがあるのか？！」



火花散る炎の奔流が、さらに一帯を嘗め尽くす。

この戦いさえ終われば、何もかも収束する・・のだろうか？

• 452年 あたり一面焼け野原・・

「聞いたか？！ この街、都市連合に入るんだとよ」

「なにい？ そんなことして、何か意味があるのか？」

「せっかく原石掘ってるんだから、有効利用しようってことかね」

「食い物にされねえだろうなあ？」

「わははは、うちの大将に限って、それは無えな」

「違いない」

「ま、もらえるものが もらえるんなら、文句は無いな」



時折 振舞われる酒を飲みながら、彼らは働く。

ひたすら精力的に。

ひたすら陽気に。

• 460年 ジヒト砂漠、露天掘りで宝石を掘りながら

「女王陛下・・こんなところでお待ちにならずとも・・」



「そうね・・でも、病の身の者が森に入るのはどうかと思うわ」



「ですから、こんなご無理をなさらずとも、我々が行くと・・」



「駄目よ・・それでは、こちらの気持ちは伝わりません」



彼女の誠意は、確かに伝わった。

だが、彼女自身は病に打ち勝つことは出来なかった・・

• 467年 "銀輪の森"に病を押して客が訪れる

「今回の遠征、ご苦労だったな」

「なかなか手ごわい魔族でしたが、任務は果たせました」



黒影の"剣"が直接戦いの場に出なければならなかったのだから、

確かにそれは高位の魔族だったのだろう。

・・戦いの話は尽きないかと思われたが・・



「ところで、これからのことなんだが・・」

「分かっています。この任務が終わったら・・という約束でしたね」

「そうか！ 受けてくれるか、ミシェイラ？！」

「・・はい。これからもよろしくね」



人目をはばからず抱き合う二人。



・・しかし、それが最後の抱擁になるとは予想もつかなかった・・。

• 480年 帝都シリアム・ティトセラにて

「姫！ あれはどういうことです？！」

「私どもに何の相談も無く、あのようなことを！」



カハシュ都市連合 加盟を認めるという知らせが届いて以来、

その事を何も聞かされていなかった上層部が血相を変えたまま・・



「君たちに問いたい。私は誰だ？」

「は・・リエーヌ様、何を？」

「私は君たち全員に認められ、ヴィシュの当主となった・・

　と思ったのだが、それは記憶違いか？」

「・・いえ・・その通りです」

「全ての最終的な決定権は当主にある・・と思っていたが、

　それが記憶違いということか？」

「・・いいえ・・決定権はあなたにあります・・・」

「では、これ以上 話す必要は無いな？」

「・・・・はい・・・」



歯軋りの音が聞こえそうだった・・と後でリエーヌは親しい人に漏らしたという

• 490年 北方、ヴィシュの館にて

「ギルスじゃないか。久し振りだなあ、いったいどうしたんだ？」

「あら、あなた・・ここの人だったの？」



褐色の肌の女性が軽い驚きを見せる。



「おうよ、こいつは『やがては頭領』と言われてた逸材さ」

「あらあら、そんな人がどうして街を出ていったのかしら？」

「その話・・もう無効になってしまったか？」



女性のことはわざと無視して、真摯な目で ギルスは切り出す。

問われた方も、表情から笑みが薄れていく。



「・・まずは話を聞かせてもらおうか。それから皆に聞くことだ。」



割り込む隙を失った女性が、面白そうに二人をみつめる。

• 503年 南方の山岳で